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2020.08.05

初のオンライン説明会開催

「IoT Maker's Project」は、官営八幡製鉄所の操業以来培われた「ものづくり」のDNAを受け継ぐ北九州から、IoTで世界を変えるビジネスを創出しようという意欲的なプロジェクトだ。単に事業アイデアを募集して表彰するだけでなく、プロジェクトが抱えるメンターや共創企業、北九州市にある高専や大学などの人材や設備などのリソースを活用してプロトタイプ化を行うところまでをサポートすることを特徴としている。2017年度の開始以来、北九州市の強力なサポートの下、すでに複数のアイデアが採択チームによって製品化・事業化されている。

 2020年度の募集は8月24日まで、7月22日にはZoomウェビナーを用いたオンラインプロジェクト説明会が開催された。この説明会ではプロジェクトの概要や応募要項、スケジュールを説明するだけでなく、過去に採択されたチームの体験談がパネルディスカッション形式で紹介された。

北九州市の起業家支援

「IoT Maker's Project」は、応募されたIoT関連の「事業アイデア」を北九州市に拠点を持つ企業が採択し、100万円の開発資金と、メンターや高専・大学などのリソースを提供することによってプロトタイプ完成までを支援するプロジェクトだ。採択されれば資金援助のみならず、実証実験や事業化に向けて全国に拠点を持つ企業とのコラボレーションが得られるチャンスもある。

 説明会では、まず北九州市における起業家支援の取り組みについて紹介があった。北九州市は、日本一起業家に優しい街として、小倉駅を中心とした自転車で行き来できるエリア内に様々な支援機関を集約している。例えば北九州市が提供するコワーキングスペース「COMPASS小倉」が小倉駅直結の好立地に提供されているほか、fabbit株式会社や一般社団法人「まちはチームだ」がコワーキングスペースを運営している。

 また、北九州市は起業家の挑戦を支えるネットワークの構築を推進しており、北九州市発の新規ビジネス創出に向けた取り組みを加速している。例えば2015年には立ち上げた「北九州スタートアップネットワークの会」は、既に会員数が800名を超える規模に拡大しており、金融機関や「まちはチームだ」の支援を受けた創業塾や、スタートアップ体験イベント「Startup Weekend」も開催されている。

 北九州市は産学との連携にも積極的だ。北九州工業高等専門学校や西日本工業大学とはプロトタイプ製作やデザイン面でコラボレーションされており、「IoT Maker's Project」の採択チームはそのリソースが活用できるようになっている。直近では九州工業大学および株式会社YE DIGITALとオープンイノベーションの創出に特化した連携協定が結ばれている。

 ハードからソフトまですべての分野での支援体制が充実しているところが、北九州市の特徴と言えよう。

IoT Maker's Projectの注目ポイント

 そのような北九州市が主催する「IoT Maker's Project」には4つの注目ポイントがある。

1. IoTデバイス特化
「事業アイデア」を募集し、優秀アイデアを表彰したり賞金を提供するハッカソンなどは少なくないが、その「プロトタイプ完成」までサポートするプロジェクトは「IoT Maker's Project」が全国初の取り組みだ。

2. 技術/経験不問
 必要なのは「事業アイデア」と「熱意」だけであり、参加者の技術力や経験は不問となっている。これは、ビジネス開発/ものづくりのプロ集団が参加者のプロジェクト推進をしっかりと支援してくれるからだ。必要な人脈形成も北九州市が仲介してくれる。

 また、参加資格は社会人・学生を問わない。個人でも企業でも、全国どこからでも応募可能である。起業した場合に所在地を北九州市にするなどの制約もない。

3. 大手企業との共創機会
 プロジェクトに応募したアイデアは、すべてIoT関連の新規事業開発を目指す大手企業による審査を受ける。審査に通り、採択されれば全国展開をしている企業とのコラボレーション機会を獲得することが可能だ。

 2020年度の「IoT Maker's Project」には、4つの企業が共創企業として参加している。全国に8400台のタクシーを持つ第一交通産業株式会社、製造業の設備やメカトロニクスにおけるソリューションに強みを持つ株式会社ドーワテクノス、九州に工場を3つ持っているトヨタ自動車九州株式会社、そしてサイバーセキュリティの日本のパイオニアと言われている株式会社ラックの4社だ。これらの企業とのコラボレーションは、スタートアップにとって大きな飛躍のチャンスとなるだろう。

4. 開発費支援
 共創企業から、1チーム当たり最大100万円の開発費の支援が得られる。これが「開発費」であって「賞金」ではないところに注目すべきだろう。プロジェクトの最後には開発したプロトタイプを使ったプレゼンテーションイベントが組み込まれており、採択チームはそれに間に合うよう、プロトタイプを開発しなくてはならない。

ビジネス開発/ものづくりを支える強力な布陣

「IoT Maker's Project」は新規のIoTビジネス立ち上げに向けて即効性のある支援体制を敷いている。まずビジネス開発面においては、、日本を代表するIoTメーカーから3名がメンターとして参加している。1人目はハードウェアに特化した投資事業を展開している株式会社ABBALab代表取締役の小笠原 治氏。2人目はパナソニック出身で独立してIoTハードウェアの開発製造を行なっている株式会社Shiftall代表取締役CEOの岩佐 琢磨氏。3人目はクラウドファンディングプラットフォームを運営する株式会社マクアケの取締役木内 文昭氏。それぞれ投資家目線、開発者目線、マーケッター目線からみたメンタリングを行なうという理想的な布陣となっている。

 具体的なものづくりやプロトタイプ開発の面では、北九州工業高等専門学校の専門家チーム、北九州高専発のベンチャー合同会社Next Technology代表の秦 裕貴氏、西日本工業大学 デザイン研究所所長の中島 浩二氏がサポートする。北九州工業高等専門学校のものづくりセンターでは大型の工作機械や加工機械などを利用することができる。西日本工業大学の専門家からは商品化を視野に入れた時に欠かすことのできないUI/UXについてアドバイスを受けられる。これらはプロジェクト参加者にとって非常に大きなメリットとなるだろう。

 こういった支援体制により、これまでにもユニークなIoTシステムのプロトタイプが開発されてきた。今回のプロジェクト説明会では、その中から2社をピックアップし、パネルディスカッションを通じて「IoT Maker's Project」の実態が掘り下げられた。

過去採択チームのリアル体験談

 今回のパネルディスカッションは、デロイトトーマツベンチャーサポート株式会社 九州地区担当の浅野 泰輔氏(以下浅野氏)をモデレーターに、2017年に事業アイデアが採択された株式会社トレッタキャッツCPOの平畑 輝樹氏(以下平畑氏)と2018年に採択された株式会社nanoFreaks CTOの成田 浩規氏(以下成田氏)を加えた3名で行なわれた。

 トレッタキャッツ社は、猫の健康管理を目的としたスマートねこトイレ「toletta」の開発・販売を行っている。猫がtolettaを利用すると、画像認識によってどの猫が利用したのかを判別すると同時に、猫の体重と尿の量を測定し、クラウドにデータをアップロードする。このデータはスマートフォンで確認することもできる。

 アップされたデータをスコアリングした後、トレッタキャッツ社の獣医師が分析し、病気の懸念がある猫の飼い主に対してアラートを送る。このアラートによる病気の検知率は97.5%を記録しており、多くの飼い主が愛猫の病気を早期に発見できるようになっている。

 nanoFreaks社が開発しているのは、漁船などからの転落事故発生時に救難信号を送ってくれるデバイス「yobimori」だ。応募時には会社組織ではなく大学生数名によるチームであったが、昨年株式会社を設立し、資金調達も成功して量産に向けた開発を加速させている。

 1人しか乗っていないような小さな漁船で転落事故が発生した場合、これまではそれを本人以外に知らせる手段がなかった。そのため発見が遅れ、犠牲者が出てしまうことも少なくなかった。yobimoriはこれを解決するために、起動したらその位置情報をすぐに漁協や海上保安庁、近隣の船に発信する。最近初受注を獲得したとのこと。

どうやって作る?どこに頼んだ?

浅野氏:まず、プロジェクトに応募したときに、IoTの開発の経験やノウハウがあったのか。もしなかったら、どうやって作ったか、どこに頼んだか、を教えてください。

平畑氏:tolettaの開発は会社で行なっていたので、メンバーはそれなりにいたが、IoTをやるにはハードもソフトもやれなくてはいけない、基盤もやれなきゃいけない、もしかしたらアプリも作らなくちゃいけない。サーバーのエンジニアも必要ということで、そのすべてをカバーするほどのリソースはなかった。

「IoT Maker's Project」はプロがいるというところが珍しく、ウチに足りないリソースをここで補えたというのが大きかったと思う。これから応募する人は、プロがいるのが強みだから、どうやって作るのかを心配せずに、まずは応募するというので良いのではないか。

浅野氏:ソフトとかハードとかのなかで、どこを一番メンターに頼ることになりましたか?

平畑氏:toletta自体が非常に大きいので、これをどうやって作るのかということが一番問題だった。最終的には3Dプリンターで作ったが、あの大きさのものを作れる3Dプリンターを持っている業者を探すところをサポートいただいた。それとtoletta本体を動かす組み込みソフトを作るリソースがなかったので、北九州高専のチームとやらせていただいた。

浅野氏:つづいて成田さんいかがでしょうか?

成田氏:当時は学生で、授業を受ける傍ら北九州に足を運んで開発をしていた。IoTでものづくりをやろうとすると、ソフトやハードで専門家が大勢必要になる。しかし「IoT Maker's Project」なら、自分たちのアイデアが本当に実現できるかはプロジェクトの中で試せる。足りない知識はメンターからもらえるし、Next Technorogyさんにお願いしたりもできる。なのでプロトタイプを作るだけなら学生の中から手を動かすリソースを見つけてくれば十分。

浅野氏:採択されたときと、最終的なプロトタイプとは全く違うものになっていますが、なぜ海難救助デバイスに行きついたのでしょうか?

成田氏:最初に提案したアイデアと今作っている海難救助デバイスは全く違うものだった。そこからリサーチしたり、メンターに話を聞いてもらったりしていく中で、もっと自分たちの原体験に迫ることをやろうという話になった。チームのメンバーで原体験を出し合って、その中でIoTと繋がるものをピックアップし、そこから発展して今の形になった。

浅野氏:メンタリングをしていく中で、それでいいのか、それにワクワクしてやっていけるのか、といったことを詰めていく中で変わっていったという例ですね。

「熱意」と「アイデア」以外に必要なものは?

浅野氏:つづいて「熱意」と「アイデア」以外で必要なものという点ではいかがでしょう?

成田氏:なんといっても行動力だと思う。ものを作っただけでは、それが本当に欲しかったものなのか、本当に使えるものなのかわからない。作ったらそれをお客さんのところに持っていって、本当に欲しいものなのか聞かなくてはいけない。そういう行動力が必要。北海道から長崎くらいまで転々と漁師さんにインタビューに行きました。

浅野氏:ものを作るだけじゃなくて、作った後のことまで考えて動かれていたのが印象的でした。

平畑氏:人と人とのつながりが重要だと思う。IoT商品は絶対に一人ではできないので、多くの人と関わらなくてはいけない。大勢の人に協力してもらわなくてはできない。特に北九州には熱い人が多いなと「IoT Maker's Project」に参加して感じた。ぜひ参加して、行動して、いろんな人とコミュニケーションをとってもらえればと思う。

浅野氏:トレッタキャッツさんは神奈川にオフィスがあるが、そこから北九州のプロジェクトに参加して、なにか面白いこととかなかったか。

平畑氏:今の製品は猫の健康管理に特化しているが、「IoT Maker's Project」に応募したときは自動清掃トイレをコンセプトにしていた。そこからプロジェクトの最中に方針転換して健康管理に特化することにした。「IoT Maker's Project」以外のプロジェクトの中には途中での方針変更が難しいものもあったりするが、北九州さんは柔軟に受け入れてくれた。そこが一番印象深かった。

「IoT Maker's Project」を使い倒す活用ノウハウ

浅野氏:今「IoT Maker's Project」に応募するならこうする、みたいなことがあれば教えてください。

平畑氏:応募したときには、我々のプロジェクトを理解してくれるパートナーを見つけたいという思いが一番強かった。量産を視野に入れていたので、そこを手伝ってくれるメーカーを見つけたかった。紹介してもらった社長さんから次の社長さんを紹介してもらい、さらにそこから別の会社を紹介してもらい、みたいなところが大変ありがたかった。ぜひそういうところは利用してもらいたい。

また、メンターからの意見で軌道修正したところもあるので、メンターに疑問をぶつけてみるのは重要だと思う。

成田氏:「IoT Maker's Project」を使い倒すというより、事務局を使い倒すのが大事だ。北九州市のつながりはすごく広くて、漁師さんや海上保安庁までつないでいただいた。ただの学生では門前払いになってしまうだろうが、北九州市が挟まることでそれを越えることができたのが非常に良かった。

情報も大事だ。我々は学生だったからビジネスもモノづくりも何もわからなかった。しかしその道のプロの方々がメンターや支援チームに入っているので、どう聞けばいいのかすらわからない状態であっても質問をぶつければ答えが返ってきた。

つながりと情報を引き出す努力をすることが「IoT Maker's Project」の活用ノウハウかと思う。

浅野氏:nanoFreaksチームは毎週のように事務局に来ていましたし、その熱量とか行動力が結果に結びついたのかなと思います。また、nanoFreaksチームは昨年資金調達をしていましたが、その中にメンターの岩田さんが入っていましたね。

成田氏:「IoT Maker's Project」がきっかけになって、岩田さんに投資をしていただけた。そのお金を開発資金や量産に向けての準備金にしている。

参加して良かったこと

浅野氏:「IoT Maker's Project」に参加して良かったことは何かありますか?

成田氏:最初は軽い感じで応募した。その結果、大学より大切なものができてしまった。人生が変わってしまった。そういう体験が学生のうちからできるということが、こういう場しかないと思う。東京の方の大きなハッカソンなどより、「IoT Maker's Project」は長期間に亘ってメンタリングもしてもらえるし、非常に良いチャンスだと思う。

平畑氏:「IoT Maker's Project」に参加することによっていろんなつながりができた。ビジネスが加速した。アイデアを形にするのはモノづくりにおいて非常に大きなハードルだから、ぜひこれに参加して、最初の試作を完成させてもらいたい。どうやって作るのかなどを深く考えずに、どんどんアイデアを応募して欲しい。

求められる新規IoTビジネス

 続いて、共創企業各社から、自社の事業概要と募集テーマの説明がなされた。第一交通産業株式会社は全国でもNo.1の車両台数を誇る日本最大のタクシー会社だが、実際にはタクシーやバスなどの旅客運送事業以外にも、不動産事業や介護・医療事業など、非常に多様な事業を展開している。

 過去にはIoT機器とタクシーを活用した徘徊者等発見支援の実証実験を行ったことがあるなど、必ずしもタクシー事業に限った募集ではない。創業者会長の黒土 始氏自らが「イノベーション2020」銘打って新しい事業の発掘に積極的に取り組んでいる。第一交通産業株式会社の固定イメージを払拭したアイデアの登場を期待したい。

 株式会社ドーワテクノスはロボット事業やプラントエンジニアリング事業が主力事業だが、今年1月から事業開発部を設立して新規事業の立ち上げに取り組んでいる。過去にはローム株式会社などと一緒に無線を活用した設備用モータの振動・温度・電流の監視IoTソリューションの開発を行った実績がある。

 株式会社ドーワテクノスとの共創の際には、国内17拠点・海外2拠点の販売網や同社エンジニア部門と連携しての実証試験などが期待できる。テーマは同社と共創できそうな内容であれば任意となっているので、大手企業の開発力を求めている起業家にはぜひチャレンジしてもらいたい。

 トヨタ自動車九州株式会社は他社と同様の自由テーマ(各社と共創できそうなアイデア)に加えて、同社独自の3つのテーマでも募集している。1つは工場の作業従事者を支援する機能を盛り込んだ簡易電子メモ(ウェアラブルメモ)の開発、2つ目は製造作業者の支援を行うイヤーカフで、小型カメラを搭載して状況を判断し、適切なアドバイスを提供してくれる機器の開発、3つ目は現場作業者の教育レベル向上を支援するシステムで、プロ作業者(匠)の動作パターンを解析し、それを追体験したり自分(現場作業者)との比較してくれるシステムの開発がテーマとなる。

 テーマが具体的であるということは、それだけ現場のニーズが高いということであり、実現できれば早期の現場への導入や、さらには同社の自社商品としての事業化も可能性がある。この大きなチャンスをぜひつかみ取ってほしい。

 株式会社ラックは、セキュアな企業インフラの構築・運用におけるリーディングカンパニーとして有名だが、最近ではスマートシティにおけるIoT機器の監視をテーマとした新規事業開発を推進している。

 今回のプロジェクトでも「街や生活の中で使うIoT」を募集テーマとしており、必ずしも同社の既存事業と絡める必要はない。日常のちょっとした便利や安心・安全を提供するアイデアの創造を期待する。

終わりに

 各社のテーマの詳細は公式サイト(関連サイト)に掲載されているので、興味がある人は是非そちらで確認してほしい。

 新規事業アイデアを募集するハッカソンやピッチイベントの多くは東京で開催されており、地方ではなかなか人を集めることができなかった。しかし、「IoT Maker's Project」はむしろ北九州市の持つ地の利を生かしたサポート体制の充実が目を引いた。他のイベントではなく、「IoT Maker's Project」に応募したいと考える起業家が増えてくるのではないかという印象を受けた。

 大都会では、大学や企業が大きな力を持ちすぎるがゆえに、小規模なプロジェクトは受け入れられないケースを何度も見てきた。IoTのものづくりに特化するなど、各地方が持つリソースを活かして小回りの利いたプロジェクト支援を行なうことにより、東京ではできない新規事業の創出が可能になってくるのではないか。「IoT Maker's Project」を主催する北九州市の熱量が伝わってくるオンラインイベントだった。

 IoT分野での起業を考えている人は、是非一度このプロジェクトに問い合わせをしてみて欲しい。少なくとも誰かを知っている誰かを知っている誰かにつながるきっかけにはなるはずだ。なお、プロジェクトの応募締め切りは8月24日になっている。